● 気まぐれな精霊があなたに割り当てられたら…♪
米国の女流詩人の話である。
バージニアの田舎育ちで非凡な詩人ルース・ストーンが語る、とても不思議なお話である。
90歳を超えてなお現役を貫く詩人のルースは、畑仕事の真っ最中に詩の到来を感じるのだと言う。
平原のかなたからもの凄い風が、吹いてくる。
風は、山や川や町を越えて、彼女に向かって突進してくる。
大地の振動から、風の到来を感じたルースは、がむしゃらに走る。
がむしゃらに家へ走って帰って、素早く紙と鉛筆を取る。
風が彼女をすり抜けようとする瞬間に、これを捕まえて、これを書き留める。
彼女にとって「風の到来」とは即ち「詩の到来」であり、彼女の詩作はいつも、このような形で行われた。
「私の詩は、私自身が書いたものではありません、畑仕事の真っ最中に向こうからやって来たものを
ただ書き留めただけなのです」と、ルースは言う。
「風が速すぎて、風が私をすり抜けて進んでしまった時は、残念ながら詩は書けないのです」
「そんな時でも、風はそのまま吹いて、次の詩人を探しに行くのです」と言ってルースは笑う。
この不思議な『ルース・ストーンの逸話』を紹介したのは エリザベス・ギルバート(Elizabeth Gilbert)、
2009年2月に行われたTEDコンファレンスの会場でのことであった。
エリザベスが自らの経験を綴った著作『食べて祈って恋をして Eat,Pray,Love』は、各国語に翻訳
されて話題を呼び、世界的なベストセラーとなり、映画化された作品もジュリア・ロバーツ主演で
世界的大ヒットを記録した。
エリザベスは、この一冊だけで、世界的なベストセラー作家の仲間入りを果たしたのであった。
大成功をおさめた頃から、エリザベス・ギルバートは「奇妙な感覚」に襲われ始める。
「私は、もう二度と、世界から注目される本が、書けないのではないか?」
「一生書き続けても『食べて祈って恋をして』を越えるモノを、書くことができないのではないか?」
不安に駆られたエリザベスは、90歳を超えてなお現役の詩人『ルース・ストーンの逸話』を思い出す。
ルースに習って、個人の才能(ジーニアス)を、風の到来(妖精)に置き換えることにした。
総ては妖精の問題~と考えてエリザベスは自分のこと「文才を使い果たしてしまったのか?」を考えない。
「到来した風(妖精)が、自分に捕まるように、吹いてくれるのか?」だけを考える。
妖精が才能を発揮して、妖精ジーニアスとなって、自分に力を貸してくれるのか?~だけを考える。
このように考えれば、たとえ失敗しても~自分の力不足ではなく、妖精ジーニアスが力を貸してくれ
なかったから~と考えることができ、失敗も成功もすべて妖精ジーニアスのせいにして、自分は精神的に
守られるのである。
エリザベスはこの考えを拡張して「パラダイムシフト(paradigm-shift)」を提案する。
─ わずかばかりの人間が天才ジーニアスであるのではなく、人間はみなジーニアスを持っている ─
「私は作家です(I am a writer. )」
「書くことは仕事以上のものです(Writing books is my profession but it's more than that, of course. )」
2009年2月のTEDコンファレンスで、エリザベス・ギルバートは、このように話して18分間の
プレゼンテーション(TED talk)を開始した。
TEDコンファレンスとは Technology Entertainment Design コンファレンスのこと。
TEDというのは、テッドと発音し~Ideas worth spreading:広める価値のあるアイデア~の精神の
もと、学術・エンターテインメント・デザイン等の様々な分野から、それらの第一線で活躍する人たちを
講師として招き、定期的にカンファレンスを開催しているグループのこと。
『TEDコンファレンス』の模様は、TED Talksという動画アーカイブとして、インターネットを通じて
全世界に無料で公開されている。
『エリザベス・ギルバート:創造性を育くむには』の18分間の動画に興味のある方は
こちらから~(英語によるプレゼンですが、日本語字幕が付いています)
* Elizabeth Gilbert on nurturing creativity * <<== click!
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Wednesday, May 9, 2012
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ご紹介の動画、拝見いたしました。
ReplyDeleteエリザベス・ギルバート女史が最初に言った、
「私は作家ですが、書くことは仕事以上のものです」
という言葉で、一気に引き込まれました。
僕には「妖精」という概念はありませんが、僕にとって書くことは、
「潜在意識の助けを借りておこなうもの」
ということが大前提になっていますので、ギルバート女史の言葉にとても共感をおぼえました。
それにしても、Graymanさんは本当に博学ですね。いつもながら驚かされます。
たいへん興味深いお話を、ありがとうございます。
☆★☆ 本条克明さん…♪ ☆★☆
ReplyDelete早々のコメントに感謝します。
本条さんにとって書く事とは「潜在意識の助けを借りておこなうもの」~ですか、なるほど深い含蓄のある
言葉と受け止めさせて頂きます。
本条さんのお考えは、若しかして、アンリ・ポアンカレ(Henri Poincare)が
『科学と方法(Science et Methode)』に書いた方法と、よく似ているのかも知れません。
私もエリザベス・ギルバートの英語の美しさに魅せられました。
私には永遠に無理でしょうが~こんな美しい英語、どのようにしたら使えるようになるのかと~(笑♪)
TEDは最近、NHKのE-テレでも扱っていますよね。
「TEDのプレゼンテーション技術」にスポットを当てて教育番組を構成しているようです。
今日では何もTEDだけではありませんねッ~折り目正しい「伝統的な(伝統アカデミズムを主張する)学会」を
除いて、多くの学会やコンファレンスでは30分前後のプレゼン(講演/発表)が多いようです。
こんにちは、Graymanさん
ReplyDelete一番最後の写真、とても幻想的で好きです。
妖精の棲む森??^-^
1枚目は風=妖精が誰かを捕まえようと
駆け抜けているように見えます。
不思議なお話ですが、惹かれるものがあります^^
Graymanさん、色んな事をご存知ですごいな~
☆★☆ いちこさん…♪ ☆★☆
ReplyDelete拙い写真をお褒めいただいて、嬉しいかぎりです!(^^)!
今回の写真はすべて、スマホ(Xperia acro)で撮ったものです。
最後の写真は、露出を「明るい雲」にあわせましたから、全体としては「露光不足気味」になっています。
不気味ながらも、幻想的に感じられるのは、この切り詰めた露出のせいかも知れません。
一枚目は、近景のブレが、あたかも露光間ズームを使って撮ったように見えるのが不思議です。
でも露光間ズームだと、左側にも右側と同じような「動感表現」が現われるものなのですが~!
いちこさん、「写真の神様が降りてくる」~ってのは、「妖精ジーニアスが力を貸してくれる」ことなのかも知れませんね(^^♪
私の何かが来る瞬間は決まって、寝付く時です。
ReplyDeleteもう寝かせて~!と思ってますが、良いアイデアなら朝には忘れているかもとメモを取ります。
朝メモを見てなんじゃこりゃ?と思う時があるので妖精が来てくれたのではなく、単なる閃きなんでしょうね。(^_^;)
ところで、エリザベス・ギルバートの英語ですが私には早口で焦ってるように聞こえました。
スピーチ枠の時間制限もあるのかもしれませんが、相手に伝えてたい最大の部分だけはゆっくり話してもいいのではないかと思いました。(個人的感想です)
写真は2枚目が好きです。映画の1コマみたいで素敵ですね。1本足の鳥さんが脇役を演じてますね。
妖精ジーニアス・・・・興味深くGraymanさんの文章を読ませていただきました。
ReplyDelete昔の話しですがポール・マッカートニーがイエスタデイは夢の中で聞いて
起きて楽譜におこしたとか聞いたことがあります。
詩も小説もそうですが時々ものすごい一行を悩んだ様子もなさそうに目にすることがありますよね?
私はきっとこういう時って何かが降臨したのではないかと思っていたのですが
そうですか妖精ジーニアス!
☆★☆ Tinyさん…♪ ☆★☆
ReplyDelete布団やベットに入って、あるいは車中で「うたた寝」しそうになった時に、閃きの一瞬が訪れる。
『寝付く時』というのは、それまでの緊張を解いて自由になった瞬間なのかも知れません。
きっとこれは、禅語でいうところの『身心脱落』につながるのでしょう!
さすがは英文科出身のTinyさんです~なるほど、エリザベス・ギルバートは焦っているようにも聞こえます。
エリザベスのプレゼンは、説明・説得調というよりは、なにかを訴えているようにも、聴こえます。
2枚目の写真をお褒めいただいて嬉しいかぎりです。
今回の3枚の写真は、これ等を「統一するキーワード」は無く、何の脈絡もありません。
この3枚こそ、世に言う『チョロスナ(ちょろっと撮影する、いい加減なスナップ)』の代表でしょう^_^;
☆★☆ franさん…♪ ☆★☆
ReplyDeleteビートルズは好いですね~詩も曲も大好きな私です!(^^)!
そうでしたか、ポールが夢の中で作曲したイエスタデイ~この曲も、とても良い曲です。
ビートルズの存在そのものが「時代のエポックだった」ように感じています。
もしかして妖精ジーニアスは、ある時期、いつもビートルズのメンバーと共にいたのかも知れません(^^♪
そうですね、小説でも佳境に入って、これでもか、これでもかとたたみかけてくる。
そして、書き手も、読み手も、同じく『陶酔の境地』に入ってゆく。
もしかして、読み手が「小説を読んで感動する」ってのも、妖精ジーニアスの仕業なのかも知れません\(^o^)/
こんばんは
ReplyDeleteルース・ストーンの独特の感性すばらしいですね
なにごとも、芸術に関するものは特に感性が大事だと思います
ページ数が多い小説でも内容が面白いとぐいぐい引き込まれます
そして読み終わったとき、「もっと話が続けばいい」と思います
写真はすべてスマホ(Xperia acro)で撮られたとのことですが、
正しい露出が必ずしも良い写真というわけではないですね
Graymanさんのすばらしい感性で撮られた写真に乾杯!!
今回のお話、強く共感しました。
ReplyDelete人によってはインスピレーションとか思いつきとか色々言い方があると思いますが、
風が詩を持ってきてくれるというのも素晴らしいですね。
TEDのレクチャーは幾つか観てます。
これも今すぐ観に行きます。
はじめまして。
ReplyDelete素敵な写真と記事ですね:)
風が人の心を通り抜けて
言葉を落としていくような、そんな
情景を思い浮かべました。
また来ます:)
とても読み応えのある内容に引き込まれてしまいました。
ReplyDelete風の到来や妖精ジーニアス、素敵な考え方ですね。
私もデザインのコンペで賞をいただいた時に、二度と無理なんじゃないかなどと考えた事がありました。
その考えは絵を描く時も感じていて、気に入った絵が描けなかったりするとスランプに陥ります。
でも妖精ジーニアス的な考え方をするとなんだか肩の力を入れずに物事を成し遂げる事ができそうです。
エリザベスさんの講演内容、心に余裕がある時に覗いてみます^^!
私の所に訪れる妖精はジーニアスではなく、文才の乏しい、妖精のようで・・・その彼が訪れた時に書かれているブログは、いつもGraymanさんがご覧になっているとおり。
ReplyDeleteしかもこの妖精、かなりグータラで・・・なかなかやってきてはくれません。
本当に困ったことです。
☆★☆ yutaさん…♪ ☆★☆
ReplyDeleteいつも真摯なコメントに感謝いたします。
そして返信コメントが余りに遅れましたことに深謝する次第ですm(__)m
TEDはNHK(Eテレ)の英語番組でも取り上げられていて、興味あるプレゼンを楽しませてくれますが、それはそれとして、これとは別に、ネットから題名検索して、手当たり次第に視聴してみるのも「又、一興」です。
創造は丘の向こうから風に乗ってやってくるって考えは、とても心地好いですよね(^^♪
ところでYutaさんの写真創造の感性は、どこからやってくるのでしょうねェ。
きっと、街歩き、公園歩き、海歩き~の中からやってくるのでしょう!(^^)!
そして、美しい音楽の旋律やリズムが、それらを手助けするのでしょうネェ(^^♪
加えて、エルンスト・ライツとカール・ツァイス財団のそれこそ宝石のような撮影機器が、Yutaさんに更なる鼓舞を与えるのでしょうね\(^o^)/
☆★☆ starofayさん…♪ ☆★☆
ReplyDelete返信おくれましたことに陳謝です。
ようやくコメント返信が、追いついて来ました。
このような状態に陥った私にしてみれば、starofayさんのように、
コメントに対しては、特にコメント返しすべきモノに絞って、それのみに返信する~ってのも、
なかなか好い方法なのかと~再認識した次第です(^^♪
「」TEDのTALKを観ていらっしゃったとのこと、何とも嬉しい限りです。
私もTEDは知恵の宝庫だと感じています。
とは言え、未だ100件ほど観た程度ですが、何度も見直したものも数件あります!(^^)!
☆★☆ awaiさん…♪ ☆★☆
ReplyDelete返信が、遅れに遅れましたこと、先ずもって陳謝いたします。
ようやくawaiさんのブログも覘かせていただくことが出来ました。
私のブログは、とてもスローなブログですが、忙しくなると更にすべてのブログ活動が停滞します。
ある意味では、とんでもないブログですが、これからもどうぞよろしくお願い致しますm(__)m
☆★☆ reikopepさん…♪ ☆★☆
ReplyDeleteようやく返信コメントです^_^;
返信コメントが、余りに遅れましたことに、こころよりお詫び申しますm(__)m
『デザイン・コンペ』で賞をお取りだったとは、凄いですね\(^o^)/
なるほどreikopepさんのブログの写真からも、センスの良さを、うかがい知ることができます。
おっしゃるように「妖精ジーニアス的な考え方」を持つことができれば、軽やかな優しい気持ちで
事にあたることが出来そうです。
私は今でも、繰り返し、このTED talksを視聴しています。
ちょっと早口ですが、とても美しい話し方であり、とてもやさしい話し方だと思うからです。
聴くことで気持ちが楽になり、加えて英語ヒアリングの練習にもなるからです。
☆★☆ gatayanさん…♪ ☆★☆
ReplyDelete返信コメントが遅れて申し訳ありませんでしたm(__)m
この返信コメントを返せば、ようやく、すべての遅れが取り戻せます。
Gtayanさんのブログで、万葉集のことや大和を中心にした古代史につき、いつも楽しく学ばせて頂いております。
さすがにお仕事柄からも、読む人を惹きつける名文で、『文才の乏しい妖精』などとお書きになると、
それこそ妖精が怒ってくるのではないでしょうか(^_-)-☆